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高水準のコーポレートガバナンスの実践は、日本経済の将来にとって極めて重要

アベノミクスの下でコーポレートガバナンスが発展し、日本産業の構造改革が進む日本において、企業の価値創造についての議論がより一層重要性を増してきています。

2016年もまだ上半期ではありますが、すでに大きな動きやトレンドが見てとれます。例えば予期せぬ日銀によるマイナス金利の導入もそのひとつですが、これはリスクアセットにとってはポジティブというよりはむしろネガティブな要因であるとも考えられます。また、日本企業は輸出企業として、低付加価値品から高付加価値品へと輸出をシフトしてきている中国に対抗するための取り組みを重点的に強化しています。(弊社のHenry McVeyがこの点について こちらでまとめています。)安部首相の進める経済戦略のうち、三つの矢の最後のひとつである「第三の矢」は、絶えず注目を集めてきましたが、アベノミクスが推進する構造改革によって、より多くの日本を代表する優良企業が主要事業の成長促進のため、競売による非中核事業のスピンアウトを積極的に検討してきています。これは今後より顕著になるであろうトレンドのひとつです。

 

ポジティブであれネガティブであれ、こういった動きにより活気付けられます。プライベート・エクイティの投資家として、我々は幸運にも毎週のようにトップ企業のCEOや経営陣とお会いして投資の機会について話し合いますが、彼らは、マクロ経済に逆風が吹く中、どのようにしてKKRが企業の成長や価値創造に貢献できるかを必ず知りたがります。

価値創造は、もちろん世界中のプライベート・エクイティの投資家が好むトピックではありますが、今日の日本企業にとっては特に意味あるものです。過去を振り返って、TOPIX(東証株価指数)やブルームバーグ ヨーロッパ500指数、S&P 500やFTSE 100のROE(株主資本利益率)それぞれの平均値を見ると分かるように、日本企業は他国の競合と比較して常にROEが低いことが分かります。こういった状況はもはや見過ごすことはできません。現在の環境において他をしのぐ努力をすることはより一層難しくなっています。

世界一流の製品やサービスを提供する日本企業のROEが他国の競合のそれを下回る状況が「常」ではなく一時の「例外」であるべきと考えます。

こうした株式リターンの低迷の多くは、脆弱なコーポレートガバナンスに起因している可能性があります。これにより他の面では有望な企業の経営陣でもビジネス環境のグローバル化や業務の非効率性、透明性の欠如、世界での成功事例の学習や導入の不足、不適切な資本および株主還元の分配といった課題への取り組みに苦戦することになります。

昨年6月に日本で公式に コーポレートカバナンス・コードが策定される以前は、上場企業でさえ独立社外取締役の選任を推進するような動きはほとんど見られませんでした。こういった全ての経営判断を閉鎖的に行う慣行が成長に逆効果となってきたと考えられます。短期的に難しい決断を下すインセンティブがあまりない取締役は、長期的に利益をもたらす実務環境へ整えようとはしないでしょう。

しかし、我々は今後訪れるであろう活発なビジネス・リーダーシップの新たなる時代に希望を抱いています。新しいコーポレートガバナンス・コードは、東京証券取引所一部上場の企業に対して、2名以上の社外取締役を選任すること、選任しない場合は、その理由を説明することを義務付けています。 日本取引所グループによると、この取り組みの結果、すでに社外取締役を選任した一部上場企業の割合は、2014年の74.3%から2015年の94.3%へと20%の増加がみられました。また、本コードの策定は様々な改革とあわせて、日本の会計基準を欧米のものにより近づけること、透明性確保のため企業に英語での情報開示を求めることを目指すものであります。

コーポレートガバナンス・コードの策定は効果的な動きであり、2014年に導入された機関投資家向け日本版スチュワードシップ・コードと連動するものです。スチュワードシップ・コードは、機関投資家間での討論、情報公開、投資先企業との対話における最善慣行を促進する諸原則です。現時点においては、 KKRを含むおよそ200にのぼる投資家が導入を表明しています。

これら二つの取り組みは、企業統治や投資家の企業への関与を強化し、さらには責任説明義務の浸透にもつながるものと期待されます。より積極的なIR活動を通して普通株主が意見を述べる機会を得て、独立社外取締役の見解が取り入れられるようになれば、企業のリーダーたちは資金の使途や資本効率促進に関してより賢明な意思決定を下すことになると考えられます。また、企業の一部門として事業を継続させるか、もしくはより大きなリターンを得る為にスピンアウトし、そのリターンを投資家に分配するかについて、より適切に判断できることとなるでしょう。

経営陣は課題を課せられ、企業を経営する態勢が整っていることの証明を迫られます。CEOと取締役が自らの下した決定事項の説明責任を果たし、一般投資家にとって彼らの活動はどういった意義があるのかを証明することは世界基準のベストプラクティスです。これらを怠った場合には、精査を受ける覚悟が必要となります。

しかし、これらについてはまだ初期段階にあります。コーポレートガバナンス・コード発足から数ヶ月の頃は、独立社外取締役は本質的にどの程度独立しているのかという疑問が沸き起こりました。独立社外取締役は意見を発しているのか、彼らの声は届いているのかという問いかけが聞かれました。さらに、取締役会を構成するにあたり十分な数の独立社外取締役を選任する必要がありますが、反対意見を述べるほどの真剣さを持ち合わせた有能な幹部はあまり多くはいません。投資家も意見を発し、慣行化した受動的な態度から脱する必要があります。

上記のような課題はありますが、コーポレートガバナンスに対する注目度の高まりは素晴らしいことであり、長期的には日本経済に大いに貢献することでしょう。言い換えれば、ガバナンス基準の強化が自信へとつながり、国内外からの投資を呼び込む結果となるのです。昨今市場が混乱する中、世界の投資家は、安全で安定したリターンを得られる優良な有価証券や企業を投資対象として求めています。このように投資家の魅力を集めることは、大規模な人口動態の変化に直面する日本株式会社の継続的な成功の鍵となる、長期的な経済効果と競争力の強化に結びつくのです。

また、短期的にはコーポレートガバナンスの強化は、企業が市場の乱高下をうまく乗り切るために役立つことでしょう。効率的な利用のための資本の有効活用は、特に市場の混乱が将来的に続く場合には役立つ戦略です。

このような重要な岐路に立つ日本には、投資促進のためにビジネスにやさしい環境整備に重点的に取り組む必要があります。政府によるこういった取り組みへの多大な支援ももちろんですが、個々の企業、そしてそのリーダーたちがそれぞれの重点目標達成や魅力的なリターン創出のための取り組みにより深く関わる必要があります。日本のコーポレートガバナンスの発展は、株主からCEOにいたるまで、ビジネスコミュニティのすべての人々の手にかかっているのです。