拡大するプライベート・エクイティの世界
KKRが創立50周年を迎えるにあたり、KKRはプライベート・エクイティ(以下「PE」)業界の進化と著しい成長を振り返りました。過去50年間で、PEは中核的な資産クラスとなりました。資産クラスとしての運用資産総額(AUM)は約10.5兆米ドルに達しました(図1)。PE業界の成長とともに、戦略が次々と登場し、それぞれが独自の特徴を持つようになりました。PE投資は、そのリスク調整後リターンに加え、伝統的な資産クラスへの投資を補完する、PE投資の仕組みに内在する優位性により、多くの投資家のポートフォリオの中核的な資産配分先として確立し、長期的なポートフォリオの運用成果をもたらす役割を果たしています。
資産配分の一部としてのPE投資はすでに普及しており、いっそう複雑化する資本市場の環境下において、CIO(最高投資責任者)の関心はPEへの包括的な投資プログラムをどのように設計するのが最も効果的かを検討することへ移っています。本稿では、PE市場の投資機会を定義し、PE投資の実践における基本的な要点をご紹介します。
PE業界を理解する
PEの主要戦略
PEはしばしば単一の戦略とみられがちですが、実際にはさまざまな戦略が存在し、それぞれが投資ポートフォリオ内で異なる重要な役割を果たします。
バイアウト戦略は成熟した企業に対する支配権を伴う投資を主な対象とし、一般的にはレバレッジ(借入)を活用して買収資金を調達し、業務改善、コストの合理化、戦略転換を通じて価値向上を推進します。通常、投資期間は5〜7年ですが、長期バイアウト戦略、または「コア」バイアウト戦略は、より長期間にわたって投資します。投資元本に対して数倍となるリターンの創出を目指し、投資期間中に断続的に分配が行われることもあります。
ベンチャー・キャピタルは主に事業立ち上げ段階の企業へのマイノリティ出資(過半数未満の出資で、経営権は持たない)です。この投資は成熟企業への投資と比べて本質的に高いリスクを伴いますが、同時に非対称的な高いリターンを期待できる可能性もあります。
グロース・エクイティは バイアウトとベンチャー・キャピタルの中間で、投資先企業の製品やサービスの需要が確認され、投資先企業が拡大フェーズに入ったことで、ある程度リスクが軽減されています。これらの企業は新規市場進出、M&A、製品・サービス拡大のための資金を求めています。
キャピタル・ソリューションおよびハイブリッド・キャピタル戦略には、ストラクチャード・エクイティ、優先証券、あるいはデットに類似した投資など、投資先企業の資本構成に合わせて設計された投資が含まれます。これらの投資は通常、契約上のリターンを持つように設計されており、下方リスク抑制効果に加え、株式のアップサイドを得る可能性もあります。投資は多くの場合、個別に相対で交渉され、高度に構造化された資金調達案件となり、一般的に好業績企業および業績不振企業の双方が投資対象となります。
投資家は、プライマリー・ファンド、セカンダリー投資、共同投資を通じて、これらのPE戦略へアクセスすることができます。KKRは、セカンダリー投資と共同投資を、それ自体が独立した投資戦略とは考えておらず、PE全体の投資方針を実行するための手段の一つであると捉えています。
図1: PEのAUMは大きく成長し、約10.5兆米ドルに到達
PEのAUM、単位:10億米ドル2
資産配分においてPEが支持される理由
幅広い投資家が、潜在的なリターン、分散効果、そして構造的な優位性からPEを採用してきました。年金、財団、保険会社、ファミリー・オフィスなど、世界中のさまざまな投資家の運用において、PEは中核的な役割を果たしています(図2)。
図2: 多様な投資家の運用において重要な役割を果たしてきたPE
PEによるポートフォリオの期待リターン向上効果
分散されたポートフォリオにおいて、PEはトータルリターンを向上させる可能性があります。過去の分析によれば、PEは魅力的なリスク調整後リターンの特性をもたらし、上場株式やプライベート市場のオルタナティブ資産を上回るパフォーマンスを示しています(図3)。
図3: 他の資産クラスと比較において、PEの高いリスク調整後リターン
公開市場およびプライベート市場のリターンとボラティリティ(年率、%)3
PEは長期的に上場株式をアウトパフォームし、平均ネット超過リターンは約400ベーシスポイント(bps)でした(図4)。ただし、この相対パフォーマンスは期間によって変動します。例えば、超大型株式が市場を牽引した過去10年間では、S&P 500はPEと比べて良好なパフォーマンスを示し、しかも極めて少ないレバレッジでそれを達成しました。一方で、上場市場の環境が厳しい局面では、PEの優位性は明確に表れています(図5)。
相対パフォーマンスを評価する際には、適切なベンチマークを選択することも重要です。「マグニフィセント7(Magnificent 7)」と呼ばれる7銘柄は、S&P 500の時価総額の3分の1を占めており⁴、同指数の直近の高いリターンの大部分を牽引してきました。そのため、これらの企業の影響を調整した指標(例: 均等ウェイトのグローバル大型株指数5)や、そもそもそれらを含まない指標(例: Russell 2000やS&P 600)と比較すると、PEは時価評価による変動(ボラティリティ)が比較的抑えられた状態で、優れたパフォーマンスを上げています。具体的には、グローバル・バイアウトは、マグニフィセント7の影響を抑制したS&P 500均等ウェイト指数(S&P 500に対して約50%アンダーパフォーム)だけでなく、Russell 2000やS&P 600といった小型株指数と比較しても良好な結果を示しています。これらの指数は、PEが対象とする企業の種類や規模により近いと考えることができます。したがって、KKRは、分散されたポートフォリオにおいては、上場株式のみと比較しても、より分散され、リスク調整後リターンの高いPEへの投資が有益だと考えています。
図4: PE投資家は、流動性の低さの対価としてリターンを得ており、長期的な平均超過リターンは(約400bps)となっている
期間別S&P 600指数に対するPEのパフォーマンス
図5: PEは過去の多くの市場環境において上場株式をアウトパフォームしてきた
様々な市場環境における、米国PEのS&P 500に対する3年間の平均超過リターン(トータル・リターン・ベース)
PEは、ビンテージ(投資開始年)が異なっても一貫したパフォーマンスを示してきました。図6では、特に市場の混乱期のビンテージにおいて、高いリターンが見られます。これはなぜでしょうか?パッシブ投資とは異なり、PEは高度な運用スキルが求められる資産クラスだからです。PEにおける価値創造は、マネージャーが独自の投資機会を発掘する力、複雑な取引を遂行する能力、企業の業務改善を推進する力を備えているかどうかに大きく左右されます。トップクラスのマネージャーは、他のマネージャーと比較して継続的に突出した成果を出しており、PEでは、他の資産クラス以上にマネージャー選定が重要であることを示しています。
図6: PEのパフォーマンスは、市場の局面にかかわらず一貫して魅力的なパフォーマンスを示しており、特に市場が混乱した時期において顕著にアウトパフォーム
ビンテージ別PEのネットIRR(内部収益率)6
図7: PEでは、どのマネージャーを選ぶかによって成果が大きく変わり、その影響度は公開市場・プライベート市場への投資の中でも特に大きい
資産クラス別のリターン格差 7
最適化されたPEポートフォリオの構築
PEが幅広い投資ポートフォリオの中で独自の役割を果たすのと同様に、その各サブセグメントもそれぞれ異なる投資目的に対応することができます。特に、PEの各セグメントは、一般にリスク、リターン、流動性の特性が異なっています。
図8では、これらの戦略をリスクとリターンの関係で整理しており、契約上の利回りによってリスクを抑えつつ株式のアップサイドも追求する「キャピタル・ソリューションおよびハイブリッド・キャピタル」から、より高いリターンを追求する一方でリスクやマネージャー間のばらつきが大きい「ベンチャー・キャピタル」へと続く関係を示しています。その中間にはバイアウトやグロース・エクイティが位置しています。効果的なPE投資プログラムを構築するには、期待リターン、資本投入のペース、分配タイミングなどを考慮しながら、これら複数セグメントを適切に組み合わせることが重要です。
図8: PEポートフォリオを構築する際、各戦略は独自のリスク/リターン特性を持ち、投資家の多様な目標に対応するためにポートフォリオ内で異なる役割を果たすことが可能
PE戦略における定性的なリスク・リターン特性 8
効率的フロンティア分析を用いることで、バイアウト、グロース、ベンチャー・キャピタル、キャピタル・ソリューションに分散投資したポートフォリオを構築し、所定のリスク水準に対して最適化されたリターンを目指すことができます(図9)。特に注目すべき点として、上位25%のマネージャーは平均して優れた投資成果を上げており、PEにおける「マネージャー選定」の重要性を改めて示唆しています。一方で、ベンチャー・キャピタルにおけるリターンは、上位25%であっても低調なことがあり、その理由は高いボラティリティと損失率にあります。このため、特にベンチャー・キャピタルでは、卓越したリターンは上位10%のマネージャーによってもたらされる可能性が高いです。
質の高いPEポートフォリオ構築においては、複数の観点からの分散が不可欠であり、とりわけビンテージの分散がこの長期資産クラスにおいて非常に重要とされています。一定の投資ペースを保つ投資家は、優れたファンドにアクセスしやすく、また高バリュエーション環境での過剰投資といった「市場タイミングの落とし穴」を回避しやすくなります。地域や戦略タイプ(例: 中型株と大型株、伝統的PEと長期保有型PE)を幅広く組み合わせることは、さらなる分散効果と景気循環に対する耐性を高めることが可能です。これらはそれぞれ、企業規模、セクター動向、価値創造の手法といった異なるエクスポージャーをもたらします。
一方で、マネージャー選定や適切な分散といったポートフォリオ構築の基本原則を考慮しない場合、パフォーマンスが損なわれる可能性があります。また、過度に分散しすぎることなく、健全な分散水準を維持することは非常に繊細なバランスを要します。その他の一般的な落とし穴としては、長期資産クラスであるにもかかわらず短期的な視点で投資を行うこと、特定の実行手段に過度に依存すること、コスト効率の低い投資構造(例: 多層的な手数料構造を持つビークル)を選択すること、そして不適切なベンチマークを用いることなどが挙げられます。
PE投資プログラムの成功を評価することも、投資プロセスにおいて重要であり、決して簡単な作業ではありません。PEのリターンは時間をかけて形成されるため、複数の指標を用いてパフォーマンスを測定し、長期的な成果と短期的な成果の双方を考慮することが重要だと考えています。たとえば、内部収益率(IRR)、投下資本倍率(MOIC)、実現リターンといった定量指標に加え、投資ペースや戦略への一貫性といった定性的要素も併せて評価すべきです。
図9: 効率的フロンティア分析に基づいて、ボラティリティあたりのリターン効率の良い、最適化されたPEポートフォリオの導出が可能
効率的フロンティア(過去の年率複利のリターンベース)9
まとめと今後の展望
PEが投資ポートフォリオの中で継続的に成長し、組み込まれてきている背景には、変化する投資環境においてその戦略的重要性が高まっていることがあります。しかし、長期的に魅力的なリターンや公開市場とは異なる分散効果は、慎重な実行を通じて初めて実現されるものです。効果的なポートフォリオ構築には、PEのセグメント配分、マネージャー選定、ビンテージの投資ペース、資本の運用期間(キャピタル・デュレーション)といった要素を適切に調整することが求められます。持続性のあるPE投資プログラムの構築は、市場タイミングよりも、規律、構造、そして着実な運用姿勢にかかっています。
特別な謝意を表します:
Christian Olinger, Director, KKR Solutions
Sean Quinn, Director, Global Client Solutions
Caroline Voegele, Analyst, KKR Solutions
注釈
1 2024年12月時点。
2 すべてのプライベート・エクイティ(共同投資、ダイレクト・セカンダリー、FoFを除く)、メザニン、およびスペシャル・シチュエーションを含みます。
3 株式60/債券40ポートフォリオは、MSCIワールド60%、グローバル債券40%で構成。実現年率ボラティリティは四半期リターンを用いて計算。2000〜2024年の実現年率複利リターンおよび実現年率ボラティリティは以下の指標を代理として使用。グローバル・バイアウト: Cambridge Buyout Index、プライベート・インフラ: Burgiss Infrastructure Index(Generalist、Value-Add、Opportunistic)、プライベート不動産: Burgiss Real Estate Index(Value-Add、Opportunistic)、プライベート・デット: Burgiss Private Debt Index、MSCI ワールド: MSCI World Index、グローバル債券: Bloomberg Global-Aggregate Total Return Index Hedged USD、グローバル・ハイイールド: ICE BofA Global High Yield Index、グローバル・バンクローン: Morningstar Global Leveraged Loan TR USD、グローバルREIT: S&P USA REIT Index 45%、S&P Europe REIT Index 45%、S&P APAC REIT Index 10%。
4 2025年8月現在。
5 S&P 500均等ウェイト指数による測定。同指数はS&P 500を約50%下回りました。
6 本数値は、ビンテージ年ごとに、同じビンテージ年に属する複数のファンドを、規模の大小に関係なく同じウエイトで平均したネット・リターン(LP受取ベース)を累積したものです。リターンには管理報酬および成功報酬が控除されています。なお、2021年以降のビンテージには有意なリターン情報が存在しません。
7 上場市場のデータは 2025年3月31日までの過去15年間、プライベート市場のデータは 2021年までの15年間のビンテージを含みます(それ以降のビンテージはデータが不十分)。Cambridge Associates のデータベースは継続的に更新され、変更される可能性があります。PEにはバイアウト、グロース・エクイティ、ベンチャー・キャピタルを含みます。
8 資料に掲載されているデータは、本資料で対象としている戦略および示唆的な指標に関して記載された前提条件に基づいています。これらの前提条件の一部はモデル化を目的として設定されたものであり、実際には実現しない可能性があります。また、これらの前提条件の妥当性や、使用されたすべての前提条件が明示され、十分に考慮されていることについて、いかなる表明または保証も行うものではありません。実際のパフォーマンスは、ここに示されたモデル上のパフォーマンスと大きく異なる可能性があります。前提条件の変更は、提示されたモデル試算リターンに重大な影響を及ぼす可能性があります。本資料に掲載されているデータは、KKRが信頼できると考える情報源から取得した情報に基づいていますが、KKRはその正確性、十分性、適時性、完全性について、いかなる保証も行うものではありません。ターゲット・リターンまたはモデル試算リターンに関する詳細については、「重要情報」をご参照ください。ターゲット配分は変更される可能性があり、当該配分が達成される保証はありません。実際の配分は、ここに示された内容と大きく異なる可能性があります。
9 統計値は2005年第1四半期〜2024年第4四半期の四半期リターンを用いて算出しています。各資産クラスは次の通りです。バイアウト: Cambridge Buyout、グロース: Cambridge Growth Equity、ベンチャー: Cambridge Venture、キャピタル・ソリューションズおよびハイブリッド・キャピタル: 70% Burgiss Mezzanine + 30% Cambridge Buyout(2005–2024)、仮想PEポートフォリオ: バイアウト70% + グロース10% + ベンチャー10% + キャピタル・ソリューションズおよびハイブリッド・キャピタル10%。
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本資料は、KKR が2025 年12 月に発行したPrivate Equity Decoded:An Asset Class Playbook を日本語に翻訳したものです。