エグゼクティブ・サマリー:
2026年において、投資家およびアドバイザーがプライベート・エクイティ(以下、PE)への配分を検討する際に重視すべき主要な論点には次の5点が挙げられます。
- PEはどのように分散効果と耐性(レジリエンス)をもたらすのか。それはなぜ重要なのか。
- 今後5年間において、PEは他の資産クラスと比較してどの程度のリターンが期待できるのか。
- 足元の環境下で資本を複利成長させるうえで「質(クオリティ)」が重要となる理由は何か。
- 足元の経済サイクルにおいて、投資会社はどのようにアルファ創出に向けてポジショニングしているのか。
- 差別化されたリターンを生み出すうえで、市場タイミングはどの程度重要か。
足元のマクロ環境および投資環境に関するKKRの見解は、本稿全体を通じて展開するこれらの論点に反映されています。総括すると、世界経済のマクロ環境は依然として建設的ではあるものの、景気循環の後半局面に位置している可能性が高いとみています。生産性は堅調であり、成長は底堅く、金融環境も引き続き緩和的です。一方で、株式を中心とするパブリック市場では、バリュエーションの上昇と相関の高まりを背景に期待リターンが圧縮されつつあり、ボラティリティも依然として高止まりしています。こうした環境下におけるKKRのマクロ経済の見通しは、リスクを回避することではなく、ポートフォリオ、資本構成、投資会社の質を高めることです。すなわち、クオリティ、耐性、分散性をより重視するアプローチへの転換です。
この枠組みの中心に位置するのがPEです。PEは市場ベータへの依存を低減し、アクティブ・オーナーシップ、オペレーション改善、長期的構造の成長トレンドに基づくアルファ創出へと投資家を導きます。また、「忍耐強い資本」による長期志向の投資アプローチにより、短期的な市場変動のタイミングを図ることよりも、継続的な企業変革と複利成長を重視します。とりわけ足元では「ハイ・グレーディング(質の高度化)」のコストが歴史的に見て低水準にあり、価値向上に向けてポートフォリオを再構築する好機であると考えます。
1. PEはどのように分散効果と耐性をもたらすのか
PEは、パブリック市場ではアクセス困難であり、かつ相関の低いプライベート資産への投資機会を提供することで、ポートフォリオの分散効果および耐性を高める可能性があります。
近年、ポートフォリオ構築においてプライベート市場の重要性が高まっている背景には、長期的な資本形成、分散投資、退職後の資産保全のあり方に関する構造的な変化があります。重要な要素の一つが非流動性プレミアムです。さらに、パブリック市場に対する超過リターンの源泉としては、アクティブな投資先選定、綿密なポートフォリオ構築、オペレーション改善、インセンティブの一致などが挙げられます。
加えて、足元は資産配分におけるレジーム・チェンジ(体制転換)の局面にあるとKKRは考えています。世界経済は低成長・低インフレ環境から、名目GDP成長率の上昇、根強いインフレ、地政学リスクの高まりを特徴とする環境へと移行し、伝統的なポートフォリオ構築手法の信頼性が低下しています。株式と債券の相関が上昇し、伝統的な債券が持つ「ショック吸収機能」は低下しています。ボラティリティが高止まりする環境において、単一資産による分散に依存するのではなく、複数の差別化されたリターン源泉に依拠する全天候型ポートフォリオの構築が重視されています。歴史的に見て、PEはマクロ環境がストレス下にある局面においても、伝統的資産クラスと比較して相対的に有利な特性を示してきました1。
図表1: インフレは鈍化傾向にあるにもかかわらず、株式と債券の相関の高まりはプライベート市場の重要性を示している
現地通貨建て株式と債券の36カ月ローリング相関係数
また、プライベート市場はパブリック市場よりもはるかに広範な企業群へのアクセスを提供します。2000年以降、米国の上場企業数は約50%減少した一方で、売上高1億ドル超の未上場企業数は大幅に増加しました2。プライベート市場へのエクスポージャーを持たないポートフォリオは、経済全体の大部分を取り逃がしている可能性があります。
もっとも、資本配分は厳選して行う必要があります。特にAI(人工知能)のようなテーマに対する熱狂が高まる中では、単にそのテーマに投資するだけでなく、規律ある投資判断、保守的な資本構成、オペレーションの専門知識がより重要となります。
KKRの見解では、2026年2月初旬に見られたソフトウェアおよびAIセクターの下落は、ファンダメンタルズの広範な悪化によるものというよりも、主として投資家心理やポジショニングに起因するものであり、AIがソフトウェアの価格設定、利益率、競争環境をどのように再構築し得るかに対するパブリック市場の不安心理を反映した動きであったと考えます。
図表2: PEは、より広範かつダイナミックな投資機会へのアクセスを提供
米国の上場企業数と従業員50名超の未上場企業数の比較
KKRは、企業向けのミッション・クリティカル(不可欠)なソフトウェアは、広範な市場全体と比較して今後も相対的に高い耐性を維持すると考えています。これらの企業は、技術進化による破壊の影響を受けにくい傾向があるためです。むしろ、AIの進展を生産性や効率性を高めるツールとして活用し、自社の中核製品やサービスの価値を増幅させる推進力として恩恵を受ける可能性があります。こうした企業は一般に、情報処理の中核を担う存在であり、独自データ、既存の顧客基盤の強み、高いスイッチングコスト、規制対応や地域特有の複雑性といった防御的なモート(競争優位性)を有していることが特徴です。深い専門性を備えたPEの投資会社は、こうした建設的で耐性があり、分散効果の期待できる市場領域に対して、慎重かつ戦略的な投資を行うことが可能です。したがって、本サイクルの現段階においては、個別銘柄の選択以上に、どの市場領域に資産配分をするかの巧拙が成果を左右する局面にあると考えます。
これらのダイナミクスを勘案すると、プライベート市場が機関投資家および個人投資家の双方にとって、周辺的な配分対象からポートフォリオ構築の中核的構成要素へと移行しつつある理由が理解できます。長期資本に対する魅力的な非流動性プレミアムに加え、ボラティリティおよび資産クラス間の相関が高まる環境下において有意な分散効果を提供できることは、今後のサイクルにおいて耐性、持続性、そしてリスク調整後リターンの向上を目指す投資家にとって、プライベート市場をさらに不可欠な存在にしています。
2. 今後5年間のリターン見通しにおいて、PEは他の資産クラスと比較してどのような位置付けにあるか
PEは、非流動性プレミアム、アクティブ・オーナーシップ、持続的な価値向上、そして戦略的なポートフォリオ構築を背景に、長期的には他の資産クラスを上回るパフォーマンスが期待できる位置にあると考えます。
過去30年間において、PEは上場株式に対し、ネットベースで年率約4〜5%の超過リターンを創出してきました3。この関係性は地域や景気循環を問わず概ね一貫して観察されています。歴史的に見ると、PEが最も安定的にアウトパフォームしてきたのは、パブリック市場のリターンが穏やか、あるいは不安定で方向感に欠ける局面であり4 、マルチプル拡大が主導する強気相場の局面ではありません。重要なのは、KKRの現在の見通しが、まさにそのような環境を示唆している点です。
図表3:株式市場が相対的に力強さを欠く局面ではPEがアウトパフォームする傾向
今後を展望すると、上場株式のリターンはより穏やかな水準が見込まれ、非流動性プレミアムの価値が相対的に高まる可能性
パブリック市場のリターン局面別の、米国PEのS&P500指数に対する過去3年間の平均年率超過トータルリターン
足元のマクロ環境も、この傾向を裏付けています。資本市場の流動性は依然として長期平均を下回り、発行活動も低調な状況が続いています。また、バイアウト投資のエントリー・バリュエーションは、大型上場株式と比較してなお有意に低い水準にあります。これらの条件を総合すると、歴史的には、積極的な市場タイミングに依存するよりも、規律ある投資実行を重視するアプローチがより良好なビンテージ成果につながってきました「ハイ・グレーディング(質の高度化)」の観点から見ると、PEは上場市場におけるマルチプル拡大への依存ではなく、利益成長、オペレーション改善、企業レベルでの変革といった実体的なリターン創出要因に軸足を置く形で、ポートフォリオの構造を移行させることを可能にします。
図表4
KKRの超過リターン(%)
3. なぜこの環境下で資本を複利成長させるうえで「質」が重要なのか
この環境下で資本を複利成長させるために「質」が重要となる理由は、PEにおいては投資会社間のリターン格差が大きく、期待されるアウトパフォームを実現するには適切な投資会社の選定が不可欠であるためです。
個人投資家にとって最も重要な示唆の一つは、PEのリターンは決して一様ではないという点です。上位と下位の投資会社間のパフォーマンス格差は、上場株式のアクティブ運用と比較してもPEの方が著しく大きく、その主因は投資先企業の選定力および価値向上力の差にあります。実際、PEにおける上位25%と下位25%のリターン格差は、歴史的に見てアクティブ上場株式のパフォーマンス格差の平均2倍超に達しています。同時に、パフォーマンスの持続性は弱まっています。中央値を上回る成績を収めたファンドの約40%は、次のビンテージでは中央値を下回っており、Preqinのデータによれば、3本目のファンドまで上位の成績を維持できる投資会社は約30%にとどまります。これまで述べてきた通り、PEにおいては「何に投資するか」以上に「どの投資会社と投資するか」が重要です。したがって、投資会社の選定こそが最終的な投資成果を左右する最も重要な決定要因となります。
図表5: 投資会社の選定の重要性 ― 特にオルタナティブ資産では、上位25%と下位25%のパフォーマンス格差が大きい
市場全体を見渡すと、資産クラス間のリターン格差は縮小傾向にあり、その分「質」の重要性は一段と高まっています。リターンが低下する世界において「ハイ・グレーディング(質の高度化)」とは、レバレッジや好調なエグジット環境に依存するのではなく、強固なトラックレコード、再現性のある業務改善の戦略、規律ある投資ペース、そして企業価値を実際に向上させてきた実績を持つ投資会社を優先することを意味します。
4. 本サイクルにおいて、投資会社はどのようにアルファを創出するのか
本サイクルにおいて最も優位に立つのは、ポートフォリオ企業の中で単に価値を「獲得」するのではなく、自ら「創造」できる実証済みの能力を持つ投資会社です。
長期データおよび直近の経験の双方から明確に読み取れるメッセージは、PEのリターン源泉が変化しているという点です。世界金融危機以降、バイアウト投資のリターンのうち、財務レバレッジに起因する部分は相対的に低下し、オペレーション改善に由来する割合が高まっています。金利水準が高い環境下では、財務エンジニアリングの重要性は低下し、実行力の重要性が増します。その結果、オペレーション最適化、製品開発、利益拡大、ガバナンス改革、戦略的再構築などの価値向上施策を通じて企業を改善し、「自ら運を切り拓く」ことができる投資会社に対する評価が高まっています。こうした投資会社は、好ましい市場環境に依存するのではなく、企業のファンダメンタルな改善にリターンの基盤を置いているため、より不安定なマクロ環境や地政学的環境においても優れた対応力を発揮可能です。
さらにこの見方は、規模の拡大と効率性向上が現在重要であるという事実によって一層強化されます。技術進化のスピードがすぐに変化する可能性は低く、特に足元のソフトウェアセクターのボラティリティを踏まえると、この傾向は当面継続すると考えられます。
実際、テクノロジーを活用した自動化やデジタル化の推進により、グローバル大企業では歴史的な利益率の上昇が見られます。そのため、デジタル・イノベーションの推進、事業規模の最適化、長期成長に向けた戦略的再構築に焦点を当てたソーシングおよび価値向上計画により、PEの投資先企業も、足元で大企業が享受している構造的なマクロ環境の恩恵を取り込むことが可能になります。
図表6:ChatGPTの登場以降、グローバル大型株の純利益率は上昇する一方、小型株は逆方向の動き
グローバル大型株と小型株の効率性改善比較(予想純利益率、今後12カ月間、%)
「ハイ・グレーディング(質の高度化)」の観点からは、KKRがコントロール権の確保、アクティブ・オーナーシップ、そして慎重に設計された資本構成を重視するPE戦略を選好する理由が、改めて裏付けられます。KKRの分析によれば、最も「純度の高い」アルファの源泉は、企業レベルでの価値向上にあります。実証的にも、PEの支援を受けた企業は、同等の上場企業と比較して、より速く、かつ安定的なEBITDA成長を示しており、景気循環を通じたボラティリティも相対的に低い傾向が確認されています。
したがって、ポートフォリオ企業の内部で成果をコントロールし、「自ら運を切り拓く」ことができる投資会社は、マクロ的な追い風に依存する投資会社よりも、より有利なポジションにあると考えます。
5. 差別化されたリターン創出において、市場タイミングはどのような役割を果たすのか
どのビンテージ・イヤーが最も優れた成果をもたらすかを予測することは極めて困難です。そのため、より有効な戦略は、構造的なトレンドに対して複数年にわたり一貫して資本を配分することにあると考えます。
KKRは、投資サイクルの次の局面は、短期的なマクロ変動よりも、持続的な構造的要因によって形成されるとみています。歴史的にも、市場タイミングに頼るよりも、規律ある投資ペースの維持と積極的な資産回収が、ビンテージ・リスクの軽減に寄与してきました。
資本集約型から資本効率型のビジネスモデルへの移行、生産性向上および労働力の再教育、「あらゆるもののセキュリティ」需要の拡大、そしてグローバル・サービスの拡大といった広範なテーマは、2026年以降のKKRの見通しの中核を成しています。PEは、四半期業績の変動ではなく、複数年にわたる企業変革を前提に投資判断を行うことができるため、これらのトレンドを捉えるのに特に適した手法です。
重要なのは、これが「いかなる価格でも成長を追求する」ことを意味するわけではないという点です。むしろ、オペレーション改善や資本効率の向上が時間をかけて複利的に積み上がるような、長期トレンドを背景に、忍耐強く資本を投下することを意味します。ベータ(市場全体のリターン)がこれまでほど寛容ではなく、資産間の相関が高まっている環境においては、時間をかけて規律ある投資実行を行うPE投資会社こそが、持続的な価値創造に向けた、より現実的かつ実効性の高い道筋を提供すると考えます。
結論
重要なのは、KKRのアプローチ自体は変わらないという点です。KKRは引き続き、優れた企業を見出し、それをさらに卓越した企業へと成長させること、オペレーション改善を通じて価値を創造すること、規律ある投資実行を徹底すること、そしてKKRのあらゆるリソースを総動員することに注力していきます。足元では、この同じ枠組みをグローバルなマクロ環境にも適用しています。すなわち、株式と債券の相関がより正の方向へ高まりつつあること、市場環境の複雑化、今後5年間のリターン格差が過去5年間と比較して縮小する可能性、さらには地政学環境の変化などを踏まえた分析です。本稿で述べてきた通り、景気循環の現局面においては、分散度合い、耐性、そして質を重視した慎重な資産配分が求められます。そして、PEはこれらの特性を提供し得る資産クラスであるとKKRは考えています。
参考
1 Cambridge Associates、KKRグローバル・マクロ&アセット・アロケーション分析。
2 米国労働統計局、世界銀行、KKR。
3 Cambridge Associates、KKRグローバル・マクロ&アセット・アロケーション分析。
4 Cambridge Associates LLC ベンチマーク統計
5 eVestment Alliance データベース(2024年12月31日までの15年間)。米国株式には大型株および小型株指数を含む。(2)出所:Preqinオンラインデータベース(2024年12月時点。2022年までの過去15年間のビンテージを含む)。上位四分位、中央値、下位四分位の境界はネットIRRベース。より新しいビンテージのファンドのパフォーマンスは入手不可または有意ではない場合があります。Preqinデータベースは継続的に更新されるため変更の可能性があります。指数へ直接投資することはできません。指数のリターンは配当およびキャピタルゲインの再投資を前提としています。上記に示された傾向が将来も継続する保証はありません。
6 Preqinデータ